アカデミック・ディテーリングの必要性

日本におけるアカデミック・ディテーリングのはじまり

厚生労働省の「チーム医療の推進に関する検討会」が2010年3月にまとめた報告書(「チーム医療の推進について」厚生労働省チーム医療の推進に関する検討会報告書2010年3月)では、薬剤師がチーム医療に参画し、より積極的に処方提案、バイタルサインのチェックを含む副作用モニタリング、薬学的な管理等を行うことが求められた。

さらに2013年に日本薬剤師会より「薬剤師の将来ビジョン」(日本薬剤師会2013年)が示され、薬剤師が医療チームの一員として高度な薬物治療の知識や技能を活用し、様々な薬学や疾病の領域において、専門性を高める必要があるとされた。

日本における処方の課題

ADの普及はその国の医療保険制度によって大きく影響を受けている。日本では患者が薬剤費をあまり意識しなくても平等に治療を受けることができる国民皆保険制度がある。
同じ効果を示す薬の種類が豊富にあり、特に診療所や病院の外来における院外処方では、医師は処方する薬剤選択の自由度は高い。

日本で医師に対して行った調査では、「処方に最も影響を与える情報源」は、「MR」が 24.4%と最も多かったのに対し、「薬剤師」はわずか 0.9%という結果(公益財団法人 MR 認定センター2012年調査)であった。
医師は製薬企業が発信する情報に影響を受けて、処方している現状にあり、薬剤師は残念ながら、医師の処方にほとんど影響を与えていなかった。

コマーシャルベース「ではない」処方

製薬企業は自社製品の利益を得ることが大前提にあるため、情報に偏りは避けられない。 一方、近年、高額な薬剤が上市され、薬剤費が医療財政を圧迫しつつあり、医療費の高騰が叫ばれている。そこで、薬剤師による医師へのADアプローチは製薬企業戦略に乗って高薬価の新薬が処方されている日本の現状を是正し、患者にとってより安全で安価な同効薬へ、処方を変える可能性があると考えられた。

処方提案力の向上にむけて

2011年に行われた「薬剤師の将来ビジョンに関する薬局薬剤師向けアンケート調査」では、「あなたが今後伸ばしていきたい能力は何ですか?」の問いに「処方提案力」が最も多く、48.3%の薬剤師が回答していた。そして、2012年には病棟薬剤業務実施加算が新設され、病棟への薬剤師の配置が加速した。

2013年3月に開催された日本薬学会第133年会において、シンポジウム「Academic detailing~医薬品適正使用のための根拠に基づくアプローチ」が開催され、米国でアカデミック・ディテーリングのトレーニングに参加された前昭和薬科大学教授山本美智子先生が日本で初めてADを紹介された(山本 美智子, 月刊薬事, 54(7):2252-2255, 2012.)。

日本版アカデミック・ディテーリングの定義

患者の安全確保のために

医師は病態生理の専門家であり、患者の疾患を特定し診断すると、ガイドラインに則り、処方される。

多くの場合はその疾患の治療に推奨される薬効群が決定される。その薬効群における各薬剤の科学的特性として、化学構造式や薬理作用の違い、内服の場合は吸収率、血漿タンパク結合率、分布容積、代謝酵素の基質、阻害誘導作用や排泄型の違い、製剤の剤形などと広範囲にわたる。

そして、同効薬の中から、各薬剤の科学的特性と患者個々の腎障害や肝障害、併用薬などの背景から、総合的に患者の副作用リスクを予測することは可能であり、少しでも患者の安全確保につながる処方選択を支援する。

定義

そこで、日本版ADの定義は「コマーシャルベースではない、基礎科学と臨床のエビデンスを基に医薬品比較情報を能動的に発信する新たな医薬品情報提供アプローチ」とし、アカデミック・ディテーラーの使命は「処方に影響を与え、最適化すること」とした。

2014 年度に東京理科大学研究推進機構総合研究院アカデミック・ディテーリング・データベース(ADD)部門が創設。基礎薬学を臨床活用すべく、医薬品の特性を化学、薬理、薬物動態の基礎薬学的な視点からデータベースの開発を進めた。そして、2017年度文武科学省科学研究費助成事業「医薬品比較システム開発とそれを用いたアカデミック・ディテーリング効果に関する研究」が採択され、日本において、ADの普及に向けた一歩を踏み出した。

(小茂田 昌代ほか. アプライド・セラピューティクス 11(5): 46-51(2019), 小茂田 昌代ほか. 薬学雑誌 139(8): 1071,( 2019))

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